📝 概要
Affinity Photo への移行でつまずく最大の壁──それは「マスクの思想の違い」です。
Photoshopで慣れた手順が、そのままAffinityでは通用しないことがある。操作そのものは似ているのに、想定通りに動かない…。
その原因は、「操作方法」ではなく「考え方(思想)の違い」にありました。
この記事は、AdobeからAffinityにステップアップ・移行しようとしている人に向けた“橋渡しガイド”です。無料化後の移行組がつまずきやすいポイントも含めて、Affinity Photoのマスクの“本質”を整理して解説します。
🔥 結論:AffinityとAdobeは「できることは同じ。でも思想が違う」
| ソフト | マスクの前提思想 |
|---|---|
| Affinity Photo | 親子構造(ネスト)の世界 |
| Adobe Photoshop | 並列構造(フラット)の世界 |
| Lightroom | 領域補正の世界 |
同じ “マスク” という言葉を使っていますが、その意味・前提がまったく違います。
この違いを理解しないと、「同じことができるはずなのに、なぜかうまくいかない…」という沼にハマります。
💥 なぜAdobeユーザーはAffinity Photoのマスクで混乱するのか?
① Photoshop本の手順がそのまま通用しない
Photoshopの場合:
- 選択範囲を作る
- マスクを作る
- 調整を適用する
Affinity Photoの場合:
- 調整レイヤーを作る
- 「勝手にマスクが付いてくる」
- そのマスクを編集する
👉 UI構造が違うため、好まれるアプローチが異なります。これは「操作の違い」ではなく、「思想の違い」からくるものです。
② マスクが付いている場所が重要すぎる
Affinity Photoではすべてのレイヤーにマスクを付けられます:
- 画像レイヤー
- 調整レイヤー
- グループ
- ライブフィルター
つまり、“どこにマスクが付いているか”が非常に重要です。
Photoshopより自由度が高いため、理解しないまま触ると混乱を招きます。
③ Lightroomとは“領域の発想”がまったく違う
Lightroomのマスクは「部分補正」の発想です。
→ AIが空や肌などを選んでくれる前提の作業。
しかしAffinity Photoは、写真編集専用ではなく「デザイン向け統合ツール」なので、自動で領域を分けてくれる世界ではありません。
④ 自由度が高いぶん、迷いやすい
Affinityは優れているけれど、“やりたいことはいくつもできるのに、うまく動かない”という混乱が起きがちです。
Affinityの「親子構造」と「ドロップゾーン」の正体
① 「横並び」か「親子」か(最大の思想差)
Photoshopでは、レイヤーとマスクは「横並び(夫婦)」の関係です。 しかしAffinityでは、マスクはレイヤーの「中(子供)」に入ります。
Adobe: マスクのサムネイルをクリックして編集
Affinity: レイヤーを展開(▶マーク)して、中のマスクを選択して編集
この「階層を掘る」操作になれないと、「マスクを塗ってるつもりが、元画像を黒く塗っていた!」という事故が起きます。
② ドラッグする位置で意味が変わる(通称:ドロップゾーンの罠)
Affinityのレイヤーパネルは、ドラッグ先が数ミリずれるだけで挙動が変わります。
サムネイルの上に落とす → クリッピング(その形で切り抜く)
レイヤー名の右側に落とす → マスク(下位レイヤーとして合成)
Adobeにはないこの「判定のシビアさ」が、最初の壁になります。
🎯 Adobeユーザーに伝えたい「Affinityマスクの3原則」
原則①「レイヤーが本体、マスクは範囲指定」
Affinity Photoは、レイヤー中心の世界です。
- 画像レイヤー → どこを消すか
- 調整レイヤー → どこに効果をかけるか
- グループ → どこまでまとめて効かせるか
- ライブフィルター → ぼかしの範囲を指定するか
→ マスクは、それを適用する“型紙”です。
原則② 同じマスクでも「付ける場所」で結果が変わる
Adobe的にひと言で表すと:
| Affinityに付けたマスク | Adobeでの対応イメージ |
|---|---|
| 画像レイヤーに付ける | レイヤーマスク |
| 調整レイヤーに付ける | 調整レイヤーマスク |
| グループに付ける | グループフォルダに対するレイヤーマスク |
→ Affinityでは見た目が同じだからこそ、「付ける場所」が大事。
原則③ Adobeの「選択→マスク」はAffinityでは「調整→マスクが自動」
この順番の逆転こそが、移行時の混乱の原因です。
✏️ Affinity Photoのマスクを最速で理解する3つの練習
練習①:瞳だけ色を変える(HSL調整)
HSL調整レイヤーを追加(全体の色が変わる)
Ctrl + I(Win) /Cmd + I(Mac) でマスクを反転(隠す)白ブラシで瞳を塗る→ 調整レイヤーの「子階層」にあるマスクを塗る感覚を養う
練習②:背景だけぼかす(ライブフィルターの反転)
画像に「ぼかしのライブフィルター」を適用(全体がボケる)
ライブフィルターのマスク(子階層)を黒で塗りつぶす(ボケが消える)
背景部分だけを白ブラシで塗る(そこだけボケる)
→ 「フィルター自体がマスクを持っている(内包している)」感覚が掴める
練習③:不要物を“非破壊で消す”
- 画像レイヤーにマスクを追加
- 黒ブラシで消す
- 白で復元できることを確認
→ 非破壊編集のメリットが分かる
🏆 Affinityのマスクが“Adobeより優れている”ポイント
- ライブフィルターに直接マスク可能(Photoshopより柔軟)
- マスクを独立レイヤーとして扱えるため、複製して別レイヤーに再利用しやすい
- 調整レイヤーを無制限に重ねられる
- グループにマスクをかけてまとめて制御できる
🔻 特に「発光エフェクト+マスク」はAffinityの圧勝です。
🔚 まとめ|思想を理解すればAffinityは“味方”になる
- Adobeは「マスク中心(並列構造)」
- Affinityは「レイヤー中心(親子構造)」
- Lightroomは「領域中心」
この違いさえ踏まえれば──Affinity Photoは驚くほど扱いやすくなります。
無償公開以後、移行組が増えていると思いますが、その分「つまずく人」も確実に増えているでしょう。
あなたがその橋渡し役になれるように
ぜひ実践してみてください。
