2025年10月末、CanvaがAffinityの無料化を発表した。
Affinity V3ではインストーラーとライセンスが統合され、アプリ間の機能が完全に共有できる「統合スタジオ」へ進化した。
V2のような「StudioLink（ペルソナ切り替えによる機能制限）」は撤廃され、どのアプリ（スタジオ）を開いていても全機能にアクセス可能になった。
すると、こう思う人が多いだろう。
Affinityって、無料で全部できるんでしょ？
この考えには少しだけ違和感を覚える。
なぜなら、Affinityは「全部できる万能ソフト」ではないからだ。
Affinityの本質は、“3つのアプリが1つの世界観としてつながる”という設計思想にある。
この記事では、Adobe経験者がつまずきやすいポイントを中心に、Designer / Photo / Publisher の関係性と、ベストな使い分けを丁寧に解説する。
1. Adobe文化の前提：役割は明確に“分業”されている
Adobeの3アプリには、わかりやすい分業がある。
🟥 Illustrator ― ベクターの世界
- ロゴ、図形、アイコン
- 線・塗り・オブジェクトの管理
🟦 Photoshop ― ピクセル・写真の世界
- レタッチ、合成、調整
- マスク・レイヤー・セレクション
🟩 InDesign ― レイアウトの世界
- 書籍、冊子、雑誌
- ページレイアウトと組版
そしてこの分業は、印刷文化の歴史の中で強固に定着してきた。
「目的に応じて使うアプリが決まっている」──それがAdobe文化の前提だ。
2. Affinityの思想：3つの「視点」を持つひとつのアプリ
Affinityに触れた多くの人が驚くポイントがある。
「Designerで写真加工できる？」
「Publisherでベクター触れるの？」
Affinityが採用している思想は、境界を溶かしていく “連続性のデザイン”。
Adobeが「専門職の分業」なら、
Affinityは「創作者の流れを止めない」ことを目指している。
3. 何をどこで作るべき？目的別・最適な使い分け
Adobe経験者が一番迷うのはここ。
以下は、「作業の考え方」から最適なアプリを導き出す早見表。
🟥 Affinity Designer（Illustrator相当）
ベクター中心の思考モード
- ロゴ制作
- 図形・アイコン
- SNSグラフィック
- 模様やパターン
- ブログアイキャッチ用の部品づくり
線・形を考えるならDesignerを主役にする。
🟦 Affinity Photo（Photoshop相当）
光・影・質感の思考モード
- レタッチ
- 合成
- ノイズ・発光表現
- 画像のトリミング
- AI画像の調整
ライブフィルターによる“非破壊編集”が強み。
🟩 Affinity Publisher（InDesign相当）
物語・ページ・構造の思考モード
- 詩集・小説
- 同人誌
- 複数ページの冊子
- 電子書籍（PDF）
- 雑誌風レイアウト
※ 日本語の縦書きには対応していますが、InDesignほど高度な縦組み機能（字形の細かい制御・複雑な組版）はまだ弱い部分があります。
4. 移行者が必ず迷うポイントまとめ
1アプリで全部できる？
→ できる。ただし“何が主役か”を決めたほうが速い。
- ベクター → Designer
- 写真 → Photo
- ページ → Publisher（そのままPhotoやDesignerの機能が使える）
Photoの中でベクター描けるの？
→ 描ける。Designerと同じベクター機能を呼び出せるが、PhotoのUIには表示されていないため、実務上はDesignerの画面構成の方が作業しやすい。
※ V3ではPhotoにベクターUIが出ない場合があり、「コマンド検索」から呼び出して利用できる。
5. Affinityが圧倒的に強い領域
Affinityは「流れを止めない」点で圧倒的に強い。
- 写真＋ベクター＋ページを一気に構築
- SNS用アイキャッチを一日で大量生産
- ブログ全体の世界観を横断的に統一
- AI画像 × 詩 × レイアウトのシームレス連携
- キャッチ画像から冊子デザインまで一気通貫
Adobeは“パーツを組み立てる文化”。
Affinityは“世界観をそのまま形にする文化”。
この違いが、ワークフローをまるごと変える。
6. 結論：Affinityは“ルートを選ぶ”ソフトである
Adobeは
「階層化された専門性」
Affinityは
「世界観をつくるための流動性」
に立脚している。
だからAffinityの正解は、こうだ。
どこから始めても、同じゴールにたどり着ける
最初はぎこちないと思う。
触っているうちに、あなたの創作に最適な“流れ”が必ず見えてくる。
無料化で多くのクリエイターが移行する今こそ、Affinityの思想を手に入れる絶好のタイミングだ。
この記事が、あなたの制作フローを一歩前に進める手助けになれば嬉しい。