デザイン教育の未来 ― Affinity世代がつくる、新しいクリエイションの時代

Adobe Affinity デザインとツール デザイン教育

デザイン教育の未来 ― Affinity世代がつくる、新しいクリエイションの時代

2025年10月末、CanvaがAffinityの無料化を発表した。
Photo/Designer/Publisher。
いわゆる“Adobe三種の神器”に対抗するソフトが、一つのアプリに統合され、無償で使えるようになった。

このニュースは、しばしば「価格競争の勝敗」で語られる。

だが本質はそこではない。

わたしたちは今、デザイン教育そのものが変わる分岐点に立っている。

「高額ソフト前提」の教育は、もう続かない

これまでのデザイン教育には、暗黙の前提があった。

Adobeを使えることが、デザインを学ぶ“入場券”だった。

Photoshop
Illustrator
InDesign

どれも強力で、完成度が高く、プロ現場での信用も圧倒的だ。

一方で、学生や学校が気軽に導入するにはあまりに高コストで複雑でもある。

  • 中高生が自宅で触れない

  • 学校はライセンス費用に悩む

  • 専門学校でも「Adobeの操作」を中心に授業が組まれる

こうした構造が長く続き、
「デザインは特別な環境で学ぶもの」という感覚が固定化されていた。

Affinityの無料化は、この前提を根本から揺るがす。

Adobeが築いた“標準”は、今も揺るがない

ここで誤解してはいけないのは、Adobeが悪いわけではないということ。

Adobe製品には、今も揺るぎない強みがある。

  • 世界中の制作会社で採用されている“業界標準”

  • 印刷・映像・広告などで圧倒的なワークフローを持つ

  • Photoshopの高度なレタッチ精度

  • Illustratorのベクター精度と汎用性

  • Adobe FontsやCreative Cloudのエコシステム

  • 企業向けの協働・共有機能

これらはAffinityがすぐに代替できるものではない。

問題は、教育現場がその“標準”を学生にも強制してきた点にある。

ここが、Affinity無料化によって変わろうとしている。

Affinityは「誰でも使えるデザイン基盤」になる

Affinityが評価されるのは、単に無料だからではない。

Canvaは「ツールそのもの」ではなく、「AI機能(Canva Pro)」で収益を上げるモデルを選んだ。つまり、学ぶための道具はすべての人に開放された。

その道具としての「設計思想」が、教育との相性が抜群に良いからだ。

  • Photo(画像編集)

  • Designer(ベクター)

  • Publisher(レイアウト)

これらが同じUI・同じレイヤー構造・同じ操作性の上にある。

言語が統一されている。

1つのファイルのまま、写真 → ベクター → レイアウトへ無段階で移行できる。
これは若い世代にとって直感的で、学習負荷が極端に低い。

PowerPointやCanvaに触れて育った世代からすると、Affinityは「触った瞬間に理解できる」設計になっている。

一方、Adobeは歴史的経緯でツールごとに思想が違う。

  • PhotoshopとIllustratorのレイヤー概念は近いようで違う

  • InDesignはまた別の思想で動く

  • 学習の入口が複数に分断されている

教育視点で見れば、どちらが“最初の一歩”として適しているかは明らかだ。

Affinity世代が社会に出ると何が起きるか?

ここからが最も重要なポイントだ。

Affinityで育った世代が社会へ出ると、デザインの現場に“世代間のギャップ”が発生する。

✔ Adobeの複雑さが「時代の名残」に見えはじめる

✔ 学校教育がAdobe前提ではなくなる

✔ 創作の入口が圧倒的に広がる

✔ 趣味→副業→制作会社の流れがスムーズになる

✔ デザインが“特権技能”から“一般教養”へ

そして最も大きい変化は、デザイン環境の民主化が本格的に動くこと。

デザイン教育は「Adobeを覚える場所」ではなくなる

これからの教育現場で求められるのは、ツールの操作ではない。

Affinityのように、

  • 自宅で自由に使える

  • ライセンス費に依存しない

  • Windows / Mac の差が小さい

  • 必要な機能が統合されている

という環境が整うと、授業の焦点はこうなる。

✔ 視覚言語

✔ 構図・レイアウト

✔ 配色

✔ タイポグラフィ

✔ コンセプトの組み立て

✔ 文脈の読み取り

つまり――
「デザインの本質」に戻る教育になる。

Adobe操作の授業は、主役ではなくなる。

“入口”の広さが創作文化を変える

中高生のうちから、

  • 画像編集

  • ベクター

  • レイアウト

  • AI補正

  • SNSサムネ

  • 小説の表紙

  • 自主制作ZINE

が全て無料で触れる。

これが当たり前になったとき、趣味とプロの距離は一気に縮む。

創作文化そのものがアップデートされる。

Adobeが作り上げてきた“プロの世界”と、Affinityが開く“市民の世界”が、同じ土俵に立ち始めるのだ。

おわりに ― AdobeとAffinityの“役割分担”がはじまる

Affinity無料化は、ただの価格競争ではない。

これは――
デザイン教育そのものを解放する革命だ。

ただし、Adobeが消えるわけではない。
むしろ、Adobeはこれからも「プロの現場」を支える柱であり続けるだろう。

  • 大規模制作

  • 印刷物

  • 写真・映像

  • 企業ワークフロー

これらは Adobe が強い。

一方で、

  • 学生

  • 創作初心者

  • 副業クリエイター

  • SNSの表現者

彼らが最初に触れるツールの主役が、Affinityに変わる。

“プロの標準はAdobe”
“学びの標準はAffinity”

こうした二極構造が生まれる未来が見えている。

世界はすでに、次の世代の手に渡りつつある。

その世代が選ぶのは、重いツールではない。

軽く、統一され、直感的で、そして自由なツールだ。

その未来の核の一つに、Affinityは確実に位置づけられる。

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