はじめに
2025年10月末、CanvaがAffinityの無料化を発表した。
Affinity V3ではインストーラーとライセンスが統合され、アプリ間の機能が完全に共有できる「統合スタジオ」へ進化した。
V2のような「StudioLink(ペルソナ切り替えによる機能制限)」は撤廃され、どのアプリ(スタジオ)を開いていても全機能にアクセス可能になった。
※現行バージョン(2025年11月時点)でも、縦書きや日本語組版の仕様は一部制限あり
このニュースは「Adobeの代替ソフトが無料になった」以上の意味を持つ。
Affinityの普及は、デザイン教育の構造そのものを変え、これまで存在してきた教育者の役割を大きく分岐させていく。
そしてそこには、AI時代の職業の未来が凝縮されている。
Affinity普及がもたらす最大の変化
「操作教育」の終わり
PhotoshopやIllustratorは強力だが、
高額
環境依存が強い
学校で導入しにくい
という壁が存在していた。
その結果、長いあいだデザイン教育は
デザイン教育 = Adobe操作の授業
という構造に縛られてきた。
しかしAffinityは、
無料で導入可能
Windows/Mac双方で安定動作
UI思想が3アプリで統一
中高生でも触りやすい構造
家庭でも継続利用できる
という条件を揃えてしまった。
現行バージョンで日本語縦書き対応が限定的であっても、基礎教育という視点では大きな障害にはならない。
“操作は勝手に身につく時代”が来る
いまの中高生は、
配信サムネ
TikTok動画編集
画像加工
学校のスライド制作
を日常的に行っている。
実際、学校現場ではCanvaやCapCutを授業で扱うケースが増えており、基本的なレイヤー概念は既に日常化しつつある。
彼らにとってレイヤーやマスク操作は、
Wordで文章を書く
PowerPointで資料を作る
と同じ“日常的リテラシー”へ移行しつつある。
もはや学校が
「レイヤーとは」「マスクとは」
と説明する必要はなくなる。
Affinity普及は、操作教育そのものを過去の遺物に変えていく。
消えるのは「操作中心の教育」
AIもチュートリアルも、操作は教えられる。
Photoshopのブラシ設定
Illustratorのパス操作
Affinityのマスク手順
レタッチ手順
これらは自動化されやすい領域だ。
Affinity普及はこの流れを加速させ、
操作を中心に置く教育者の価値を急速に減少させる
ただし、
操作を“手段”として使いながら、意図や判断基準を教えられる講師はむしろ価値を増す
ここが重要なポイントである。
Affinity世代が育つと、教育は「思想」に戻る
ツールが自由に使え、操作が“読み書きレベル”になると、次に求められるものが変わる。
それは、
なぜこの構図が良いのか
なぜこのロゴは強いのか
なぜこの余白は美しいのか
視線はどこに流れるのか
何を残し、何を削るのか
という 「意図のデザイン」 だ。
Affinityの普及は、表層のテクニックを無価値化し、デザインの核心――意図・文脈・視覚言語・問いが重要になる。
Affinity時代・AI時代でも消えない教育者とは?
結論は明確だ。
意図・文脈・問いを扱える教育者
視覚と言語のあいだを翻訳できる教育者
以下にその本質を整理する。
①「美しさの理由」を言語化できる人
AIは“それっぽいデザイン”を作る。
しかし、
なぜそれが美しいのか
は説明できない。
余白の呼吸
図と地の関係
レイアウトの重心
タイポグラフィの人格
これらを言語化できる教育者はAIには代替できない。
② 視覚言語を翻訳できる人
デザインとは「目の言語」であり、
どこを見るか
どこで迷子になるか
どこが嘘くさいか
といった視覚的評価軸は自動化しにくい。
Affinity普及により、この“目の読み書き”を求める世代が増える。
③ 「問い」を投げかけられる人
AIは答えを生成するが、問いを生み出せない。
誰のためのデザインか?
どんな感情を渡したいのか?
その色は誰を傷つけるのか?
デザイン教育とは問いを与え、思考させる仕事である。
④ 文脈を読み、文脈を作れる人
Affinityで“誰でも作れる”世界が来る。
だからこそ評価は文脈に依存する。
文化の文脈
社会の文脈
作品世界
時代背景
これを扱える教育者はAIに代替されない。
⑤ “人間の揺らぎ”を扱える人
デザインには合理性だけでは成立しない何かがある。
歪み
揺らぎ
ノイズ
偶然性
Affinity世代が大量に作品を作る中で、この揺らぎを意図的に扱える教育者は強い価値を持つ。
結論:Affinityは教育の本質を浮き彫りにする
Affinity無料化は、
操作の壁を取り払い
誰でもデザインできる時代を加速させた
その結果:
操作中心の教育は急速に価値を失う
思想・文脈・問いを扱う教育者が最も価値を持つ
AIが奪うのは技術の下層。
AIが残すのは思想の上層。
そしてこれから求められるのは、
世界の見方を教えられる教育者である。
無料化は「操作の民主化」であり、次に起こるのは「思想の格差」である。
