2025年10月末。
CanvaがAffinityの無料化を発表し、Photo／Designer／Publisher が一つのアプリへ統合された。
これを機に「IllustratorからAffinityへ移行してみよう」と考える人は確実に増えている。
しかし、移行の初日に多くの人がつまずく“最大の壁”がある。
それが──「スウォッチ」と「パターン」の思想の違いだ。
Illustratorで当たり前の操作が通用しない
Illustratorのように、パターンを塗りの一種として全般的に扱う文化がない
スウォッチが「色とグラデーションしか保存できない」ように見える
パターンの編集方法が根本的に異なる
この“文化差”を理解していないと、Affinityを「機能が足りないソフト」と誤解してしまう。
けれど本当は、IllustratorとAffinityは まったく別の思想で作られているのだ。
この記事では、その違いを“思想レベル”から分解し、移行者が迷いにくくなるよう整理していく。
1. Illustratorの思想 ─ スウォッチは「色・グラデ・模様の倉庫」
Illustratorは伝統的な印刷文化の延長線上で設計されている。
デザインの基本は線と塗り
塗りの中にパターン・グラデ・テクスチャを入れられる
それらをまとめてスウォッチに保存できる
つまり Illustrator では、
スウォッチ = 色管理の総合倉庫
という思想がある。
印刷・広告制作の現場では “色の再現性” が最重要だ。
ブランドカラーや広告物を大量に制作するには、
色
パターン
質感
グラデーション
テクスチャ
をひとまとめに扱える倉庫が合理的だった。
この文化が長年受け継がれた結果、
Illustratorユーザーにとってパターンは「塗り」の一部である
という感覚が強く根づいている。
2. Affinityの思想 ─ スウォッチは「色」。模様は“レイヤー”で扱う
Affinity（Photo／Designer／Publisher）は、Illustratorとは正反対の思想で作られている。
スウォッチ = 色とグラデーション（＋ノイズカラーにも対応）が主体（パターンやテクスチャは含まれない）
パターン = パターンレイヤーとして配置
質感 = テクスチャレイヤー
効果 = レイヤー効果・ライブフィルター
つまり Affinityは、
色と模様を“同じ箱”に入れないソフト
である。
Affinityの世界観は極めてシンプル。
色は「色」
模様は「模様」
質感は「質感」
そしてそれらを、絵を描くようにレイヤーとして自由に積み重ねる。
この思想は、印刷文化ではなく
現代のデジタルクリエイション文化
（写真加工・テクスチャ作成・AI画像合成）
を基盤にしている。
そのため Illustratorとは文化的にも操作的にも大きく異なる。
3. IllustratorからAffinityに移行した人が驚く3つのポイント
① Illustratorのように「パターン＝塗り」として統合されていない
※ Affinityにもパターンフィルは存在するが、Illustratorのように“塗り統合文化”ではない。
Illustrator
→ パターンは塗りの一種。ドラッグで一瞬。
Affinity
→ パターンは パターンレイヤー として配置する。
移行者の多くが最初に思う。
塗りにパターンがないって、バグでは？
違う。これは “思想の違い” だ。
② スウォッチが「色とグラデーションしか保存できなくて物足りない」
Illustratorのスウォッチは万能倉庫。
Affinityのスウォッチは“色とグラデーションの管理” に特化している。
つまり Affinityは
色以外は全部レイヤーでやる前提
で作られている。
最初は「機能がない」と誤解しがちだが、慣れると「むしろ合理的」と気づく。
③ パターンの編集方法がまったく違う
Illustrator
→ スウォッチの元を編集すれば全パターンに反映。
Affinity
→ パターンレイヤーをその場で直接編集。
Illustratorのような大量制作向け管理は不得手、その代わり “パターンごとに個別の世界を作れる自由” がある。
4. AffinityでIllustrator的パターン表現を再現する方法
正攻法：パターンレイヤーとして配置する
素材をグループ化
右クリック →「パターンに変換」（もしくは、「レイヤー」メニューから「新規パターンレイヤー」を選ぶ）
レイヤーとしてサイズ・角度・タイルを調整
Illustratorのような管理はないが、レイヤーごとに独立して調整できるのが最大の利点。
応用：パターンを“マスク”として使う
パターンレイヤーを作成
上に色やグラデーションを重ねる
ブレンドモードで馴染ませる
ライブフィルターで質感追加
- パターンレイヤーを右側にドラッグして「マスクとして使用」に入れる
Affinityが得意とする「レイヤーで世界を描く」手法。
特徴：テクスチャ制作はAffinityが圧倒的に強い
Photoのライブフィルター
Designerのノイズ
粒子
光彩
合成モード
Illustratorのアピアランスより柔軟で、“質感ベースのデザイン”が圧倒的に作りやすい。
5. Illustratorの優れている点（公平に整理）
Illustratorは以下の領域で世界最高峰。
パターンを“塗り”として扱うスピード
スウォッチによる色・模様の一括管理
印刷物の色管理が抜群
広告・販促物の大量制作で非常に効率的
つまり
Illustrator = 商業デザインのための色管理システム
Affinityとは競争軸が完全に違う。
6. Affinityの優れている点（移行者が途中で気づく真価）
Affinityが本領を発揮するのは以下。
レイヤーで色・模様・質感を完全分離
AI画像との合成が高速
Photo／Designer／Publisher の連携が強力
レイヤー効果が柔軟で、後戻りがしやすい
テクスチャ主体のデザインが圧倒的に簡単
つまり Affinityは
世界観を作るタイプのクリエイターのためのツール
と言える。
小説や詩の表紙
SNSアイキャッチ
アート作成
AI画像の補正・合成
雰囲気重視のビジュアル制作
このような用途と抜群に相性が良い。
まとめ ─ パターンの“自由化”は創作の自由につながる
Illustratorのパターンは、印刷文化が生んだ合理性に根ざした優れた機能。
Affinityのパターンレイヤーは、現代のクリエイション文化が求めた柔軟性。
どちらが正しいかではなく、あなたが何を作りたいかで最適解は変わる。
もしあなたが、
SNSアイキャッチ
小説・詩の世界観づくり
AI画像の合成
テクスチャ主体のアート
表紙デザイン
“雰囲気”を作るビジュアル制作
をしているなら──
Affinityの思想は、むしろあなたの創作をより自由にするはずだ。